Artist: Kanye West
Album: 808s & Heartbreak
Song Title: Pinocchio Story
概要
本作は、歴史的アルバム『808s & Heartbreak』のラストを飾る楽曲であり、シンガポールでのライブ音源をそのまま収録した極めて異例のトラックだ。歓声の中で生々しくフリースタイルされたこの曲は、名声と引き換えに「真実の愛」と「最愛の母(ゼペット爺さん)」を失ってしまったKanyeの痛切な後悔と孤独を赤裸々に綴っている。自分がメディアに消費されるだけの「作り物(操り人形)」になってしまったと嘆き、童話のピノキオのように「本物の人間(リアル・ボーイ)」になりたいと悲痛な声で叫ぶ姿は、富や物質主義の虚無感を浮き彫りにしている。スーパースターの栄光の裏にある痛ましい代償を記録した、ヒップホップ史上最も悲痛でパーソナルなドキュメントの一つである。
和訳
[Intro]
Wise man say, wise man say
賢者は言う、賢者は言う。
Wise man say
賢者はこう言うんだ。
You'll never figure out real love
「お前には本物の愛なんて絶対に分からない」ってな。
Never figure out real love
本物の愛なんて絶対に分からない。
You'll never figure out real love
お前には本物の愛なんて絶対に分からないのさ。
[Verse 1]
It's so crazy, crazy-crazy
マジでイカれてるよ、狂ってるぜ。
I got everything figured out
全てを手に入れて、世界の全部分かったつもりだった。
But for some reason, I can never find what real love is about
でもなぜか、本物の愛ってやつが何なのか、俺には絶対に見つけられないんだ。
No doubt
間違いなくね。
Everything in the world figured out
世界の全てを理解したつもりだった。
But I can never seem to find what real love was about
なのに、本物の愛が何なのかは、どうしても見つけられないみたいだ。
Do you think I'd sacrifice real life
俺が「本物の人生」を犠牲にすると思うか?
For all the fame and flashing lights?
この名声と、フラッシュの光のためにさ。
※「flashing lights」はパパラッチのフラッシュを指すと同時に、自身の前作『Graduation』に収録された大ヒット曲「Flashing Lights(名声の象徴)」へのセルフオマージュである。
Do you think I'd sacrifice a real life
俺が「本物の人生」を犠牲にすると思うか?
For all the fame and flashing lights?
名声とフラッシュの光のために。
There is no Gucci I can buy
どんなグッチ(Gucci)を買ったって無駄だ。
There is no Louis Vuitton to put on
どんなルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)を身にまとっても。
There is no YSL that they could sell
奴らが売ってるどんなイヴ・サンローラン(YSL)だって。
To get my heart out of this hell and my mind out of this jail
この地獄から俺の心を、この牢獄から俺の精神を救い出すことはできねえんだ。
※どれほどハイブランドの服(物質的な富)を手に入れても、精神的な鬱状態や喪失感という「牢獄」からは抜け出せないという資本主義的成功への強烈なアンチテーゼである。
There is no clothes that I could buy
俺が買えるどんな服だって。
That could turn back in time
時間を巻き戻すことなんてできやしない。
There is no vacation spot I could fly
俺が飛んでいけるどんなリゾート地だって。
That could bring back a piece of real life
「本物の人生」の欠片すら取り戻せやしないんだ。
Real life, what does it feel like?
本物の人生、それってどんな感覚なんだ?
I ask you tonight, I ask you tonight
今夜、お前らに聞きたい、今夜聞かせてくれ。
What does it feel like? I ask you tonight
どんな感覚なんだ? 今夜、お前らに尋ねてるんだ。
To live a real life
「本物の人生」を生きるってのはさ。
[Chorus]
I just wanna be a real boy
俺はただ「本物の男(人間)」になりたいだけなんだ。
※童話のピノキオが「人間の子どもになりたい」と願ったように、Kanyeは業界の操り人形(セレブ)ではなく、ただの「本物の人間」に戻りたいと切望している。
They always say: "Kanye, he keeps it real, boy"
周りはいつも「カニエ、あいつは常にリアル(本物)だぜ」って言うけどな。
※ヒップホップにおける「Keep it real(自分に嘘をつかない、本物でいる)」というスラングと、ピノキオの「real boy(人間の男の子)」を掛けた秀逸で皮肉なワードプレイ。
Pinocchio's story is, I just wanna be a real boy
これがピノキオの物語さ、俺はただ「本物の人間」になりたいだけなんだ。
Pinocchio's story goes, to be a real boy
ピノキオの物語は続く、「本物の人間」になるためにな。
[Verse 2]
It's funny
笑えるよな。
Pinocchio lied and that's what kept him from it
ピノキオは嘘をついた、だから「本物」になれなかった。
I tell the truth and I keep running
俺は真実を語ってるのに、ずっと逃げ続けてるんだ。
※ピノキオは嘘をついたことで罰を受けたが、Kanyeはメディアや世間に対して「真実」を語っているのに、結局はバッシングを受けて逃げ続ける羽目になっているという不条理を嘆いている。
It's like I'm lookin' for something out there, trying to find something
まるで外の世界で何かを探し求めてるみたいだ、何かを見つけようとしてさ。
I turn on the TV and see me and see nothing
テレビをつければ自分が映ってる、でもそこには「何もない(中身のない自分)」が見えるんだ。
What does it feel like to live real life, to be real?
本物の人生を生きるって、本物になるって、どんな感覚なんだ?
Not some façade on TV that no one can really feel
誰も本当には共感できないような、テレビの中のハリボテ(作り物)じゃなくてさ。
Do you really have the stamina?
お前らにマジでそのスタミナ(耐え抜く力)があるのか?
For everybody that sees you that say: "where's my camera?"
お前を見る奴ら全員が「俺のカメラはどこだ?」って言ってくるような状況に。
For everybody that sees you to say: "sign an autograph"
お前を見る奴ら全員が「サインしてくれ」って言ってくるような状況にさ。
For everybody that sees you cryin' that say you oughta laugh
お前が泣いてるのを見た奴ら全員が「お前は笑うべきだ(エンターテイナーだろ)」って言ってくるような世界で。
※セレブリティの非人間化(dehumanization)の極致。母親を亡くし泣いているKanyeに対してすら、大衆はエンターテイナーとしての「笑顔」を要求するという残酷な事実を突きつけている。
You oughta laugh
「お前は笑うべきだ」ってな。
[Chorus]
I just wanna be a real boy
俺はただ「本物の人間」になりたいだけなんだ。
Pinocchio's story goes
ピノキオの物語は続く。
I just wanna be a real boy
俺はただ「本物の人間」になりたいだけなんだ。
Pinocchio's story goes
ピノキオの物語は続くのさ。
[Verse 3]
And there is no Gepetto to guide me
そして、俺を導いてくれる「ゼペット爺さん」はもういねえ。
※「ゼペット爺さん」はピノキオの生みの親。ここでは、Kanyeを一人で育て上げ、彼のキャリアを導いてきた最愛の母、Donda Westの死を意味している。
No one right beside me
俺のすぐ傍には誰もいない。
The only one was behind me
唯一、俺の背中を押してくれていた人も。
I can't find her no more, I can't call her no more
もう彼女を見つけることはできない、もう彼女に電話することもできないんだ。
I can't—
もうできねえんだよ…。
The only one that come out on the tour and screams
ツアーにまでついて来てくれて、叫んで(応援して)くれた唯一の存在。
Back when I was livin' at home and this was all a big dream
実家に住んでて、こんなの全部ただのでかい夢だった頃からな。
And the fame will be get-got
そして名声ってやつは、得ようとして得られる(奪われる)もんだ。
And the day I moved to L.A., maybe that was all my fault
俺がLAに引っ越したあの日、もしかしたら全部俺のせいだったのかもしれねえ。
※KanyeがシカゴからLAへ移住し成功を収めたことで、結果的に母DondaがLAで美容整形手術を受け、その合併症で亡くなってしまったことへの痛烈な自責の念(サバイバーズ・ギルト)が吐露されている。
All my fault to be a real boy, chasin' the American dream
「本物の男」になるためにアメリカン・ドリームを追いかけた、全部俺のせいなんだ。
Chasin' everything we seen up on the TV screen
テレビの画面で見たもの全部を追いかけてさ。
And when, uh, the Benz was left
そして、アー、ベンツだけが残されて。
And the clothes was left, and the hoes was left
服だけが残されて、女たちだけが残されて。
You talk the hoes to death thinkin' the money that the—
金がどうこう考えながら、女たちと死ぬほど話をして。
You spend the dough to death
死ぬほどカネを使い果たして。
And tell me what be left for a real boy
なぁ教えてくれ、「本物の男」には一体何が残されるってんだ?
They say: "Kanye, you keep it too real, boy"
周りは言う、「カニエ、お前はリアルすぎんだよ」ってな。
Perspective, and wise man say
視点の違いさ、そして賢者は言う。
One day, you'll find your way
「いつの日か、お前は自分の道を見つけるだろう」って。
The wise man say you'll find your way
賢者は言う、「お前は自分の道を見つける」ってな。
The wise man say you'll find your way
賢者は言う、「お前は自分の道を見つける」ってな。
Wise man say
賢者は言うのさ。
