Artist: Mitski
Album: Nothing’s About to Happen to Me
Song Title: Lightning
概要
2026年リリースの8thアルバム『Nothing’s About to Happen to Me』に収録された「Lightning」は、死と再生、そして内なる闇にこそ宿る美しさを荘厳なスケールで描き出した楽曲である。落雷と豪雨という荒々しい自然現象を「再び生を実感する」ための儀式として捉え、自らも雨として世界に還ることを渇望する姿は、ミツキ特有の死生観の結晶と言える。特に、自身の抱える暗闇や深い悲しみを、月光や朝焼けをより美しく反射させるための「カンヴァス」として肯定する視点は極めて文学的だ。インディー・シーンにおいて唯一無二の存在感を放つ彼女が、映画的な叙情性を帯びたサウンドに乗せて、荒れ狂う自然と無邪気に戯れるような圧倒的な美しさを提示した名曲である。
和訳
[Verse 1]
Lightning hits so close
稲妻が、すぐそばに落ちたわ
Sounded like a big tin can
まるで大きなブリキの空き缶を叩いたような音がしたの
All hail the rain
すべての雨を讃えましょう
All hail the rain
降り注ぐ雨を讃えましょう
Running like ghosts on the roof
屋根の上を幽霊たちが駆けていくように
Running like they're feeling alive again
まるで、彼らが再び「生きている」と実感しているように駆け巡るの
※落雷と豪雨という破壊的な自然現象を、死者(幽霊)が再び生を謳歌する歓喜のメタファーとして解釈している。激しい嵐の中に生命力を見出す、ミツキ特有の逆説的な視点である。
[Chorus]
Here we are
私たちはここにいるわ
We've been waiting to be born again
もう一度生まれ変わるのを、ずっと待っていたの
[Verse 2]
When I die
私が死ぬとき
When I die
私がこの命を終えるとき
Could I come back as the rain?
雨となって、戻ってきてもいいかしら?
See the world again, to fall again?
もう一度この世界を見るために、そしてもう一度、地上へと降り注ぐために
※人間としての肉体を捨て、自然(雨)の一部として世界に回帰したいという願望。輪廻転生と自己喪失への静かな憧憬が込められている。
[Bridge]
If I'm dark, all the better
もし私が暗闇なら、なおさらいいわ
To reflect the moonlight
月の光を、よりいっそう美しく反射できるから
If I mourn, all the better
もし私が悲嘆に暮れているのなら、なおさらいい
To behold the sunrise
昇る朝日を、より鮮やかに見つめることができるから
※自身の内面にある闇や悲しみを否定するのではなく、他者や世界の美しさ(月光や朝日)を際立たせるための背景として受容している。ミツキの詩学において、最も崇高で美しい自己肯定の形である。
[Verse 3]
I can hear the song of my death
私の死を歌う声が聞こえる
Singing for the lightning to come
稲妻がやって来るようにと、歌い上げているの
Calling to thе thunder, ''Polo"
雷鳴に向かって呼びかけているわ、「ポロ」と
※「マルコ・ポーロ(Marco Polo)」という目隠し鬼ごっこ遊びを暗示している。雷鳴(マルコ)に対して自ら「ポロ」と答えることで、死や自然の圧倒的な脅威を「遊び相手」として迎え入れるという、恐れを知らない無邪気さと狂気が美しく描かれたラストラインである。
