Artist: Kanye West
Album: Graduation
Song Title: Big Brother
概要
カニエ・ウェストの3rdアルバム『Graduation』の終盤を飾る本作は、彼のキャリアにおける最大の恩人であり、目標であり、同時に超えるべき壁でもあったJay-Z(ジェイ・Z)に対する複雑な愛憎を赤裸々に綴ったトリビュート・ソングだ。単なる一介のプロデューサーからヒップホップ界の頂点へと上り詰める過程でカニエが経験した、Jay-Zへの憧れ、認めてもらえないことへの苛立ち、激しい嫉妬心、そして最終的な深いリスペクトがドキュメンタリーのように描かれている。アトランタの重鎮DJ Toompによる壮大でスタジアム級のシンセサイザー・ビートに乗せ、生前に感謝を伝えることの重要性を説く、ヒップホップ史に残る名曲である。
和訳
[Intro]
Stadium status
スタジアム級のステータスだ
[Chorus]
My big brother was B.I.G.'s brother
俺の兄貴は、B.I.G.の兄弟だった
※Big brother=Jay-Zのこと。Jay-Zが伝説的ラッパーThe Notorious B.I.G.と非常に親しい関係(兄弟分)であったことを指す。
Used to be Dame and Biggs' brother
かつてはデイムとビグスの兄弟でもあった
※Dame=Damon Dash、Biggs=Kareem "Biggs" Burke。Jay-Zと共にRoc-A-Fella Recordsを立ち上げた共同創設者たち。
Who was Hip Hop brother, who was No I.D. friend
ヒップホップ・ブラザーであり、No I.D.のダチだった男
※Hip Hop=シカゴのプロデューサー。No I.D.=シカゴ出身の伝説的プロデューサーであり、カニエにビートメイクの基礎を教えたメンター。
No I.D. my mentor, now let the story begin
No I.D.は俺のメンターだ。さあ、物語を始めようか
[Verse 1]
It's the Hard Knock Life Tour, sellout
あれは『Hard Knock Life Tour』、チケットは完売だった
※1999年に行われたJay-Zの大規模な全国ツアー。
Picture us in the mall, coppin' Iceberg and yell out "Jigga"
ショッピングモールでIcebergの服を買って、「ジガ!」って叫んでる俺たちを想像してみてくれ
※Iceberg=当時Jay-Zが着用して大流行したイタリアのブランド。Jigga=Jay-Zの愛称。
Yeah, that's what we'll yell out, yell out
ああ、そうやって叫びまくってたんだ
You know the name do I gotta spell out or tell 'bout
名前は知ってるだろ、わざわざスペルを言ったり説明したりする必要があるか?
J-A-Y, and 'Ye so shy
J-A-Yだ。当時のイェ(俺)は超シャイで
That he won't even step to his idol to say hi
憧れのアイドルに挨拶しに行くことすらできなかった
Standing there like a mime and let the chance pass by
パントマイムみたいに突っ立ってて、チャンスを逃しちまったんだ
Back of my mind, "He could change your life
心の奥底では分かってた、「彼ならお前の人生を変えられる
With all these beats I did, at least let him hear it
俺が作ったこのビートの数々、せめて彼に聴かせろよ
At least you can brag to ya friends back at the gig"
そうすりゃライブの後に、地元のダチに自慢くらいできるだろ」ってな
But he got me out my momma crib
でも結局、彼のおかげで俺は実家を抜け出せて
Then he help me get my momma a crib
お袋に家を買ってやることができたんだ
[Chorus]
Big brother was B.I.G.'s brother
兄貴は、B.I.G.の兄弟だった
Used to be Dame and Biggs' brother
かつてはデイムとビグスの兄弟でもあった
Who was Hip Hop brother, who was No I.D. friend
ヒップホップ・ブラザーであり、No I.D.のダチだった男
No I.D. my mentor, now let the story begin, begin
No I.D.は俺のメンターだ。さあ、物語を始めよう
Let the story begin
物語を始めよう
If you feel the way I feel, why don't you wave your hands?
俺と同じ気持ちなら、手を振ってくれないか?
[Verse 2]
Fresh off the plane, I'm off to Baseline
飛行機を降りてすぐ、ベースライン・スタジオに向かった
※Baseline Studios=Jay-Zが本拠地にしていたニューヨークのレコーディングスタジオ。
Nothing handed out, I'm 'bout to take mine
誰からも与えられちゃいない、俺は自分のものを自力で掴み取るつもりだった
'Round the same time of that Blueprint 1
ちょうど『The Blueprint』の第1弾を作ってた頃だ
※2001年にリリースされたJay-Zの歴史的名盤。カニエはこのアルバムに多数のビートを提供し、プロデューサーとして大ブレイクを果たした。
And these beats in my pocket was that blueprint for him
俺のポケットに入ってたビートが、彼にとっての青写真(ブループリント)だったのさ
I'd play my little songs in that old back room
あの古い奥の部屋で、俺のささやかな曲を流したもんさ
He'd bob his head and say "Damn! Oh, that's you?"
彼は首を振ってこう言った、「ヤバいな! おっ、お前が歌ってんのか?」
But by The Black Album, I was blacking out
でも『The Black Album』の頃には、俺はブチカマしてた(気を失うほど熱狂してた)
※2003年リリースのJay-Zの引退作(当時)。blacking out=「記憶をなくすほど盛り上がる」「大暴れする」というスラングとアルバム名を掛けている。
Partyin' S.O.B.'s and we had packed a crowd
S.O.B.'sでパーティーして、満員の客を沸かせてたんだ
※S.O.B.'s=ニューヨークの伝説的なライブハウス。
Big brother got his show up at Madison Square
兄貴はマディソン・スクエア・ガーデンでライブをやることになって
※Jay-Zの引退記念コンサート「Fade to Black」のこと。
And I'm like "Yeah, yeah, we gon' be there" but
俺は「ああ、絶対行くぜ」って感じだったんだけど
Not only did I not get a chance to spit it
俺が(ラッパーとして)ラップをかますチャンスをもらえなかっただけじゃなく
Carline told me I could buy two tickets
カーラインから「チケット2枚なら買えるわよ」って言われたんだ
※Carline Balan=Roc-A-Fellaの重役。レーベルの立役者の一人である自分に招待パスが出ず、一般客のようにチケットを買わされた屈辱を語っている。
I guess big brother was thinkin' a little different
兄貴は俺と少し違うことを考えてたんだろうな
And kept little brother at bay, at a distance
弟を遠ざけて、距離を置いてたんだ
But everything that I felt was more bogus
でも、俺が感じた理不尽なことのすべてが
Only made me more focused, only wrote more potent
俺をさらに集中させ、より強力なリリックを書かせる原動力になった
Only thing I wanna know is why I get looked over
唯一知りたいのは、なんで俺が軽視されたのかってことだ
I guess I'll understand when I get more older
もっと歳をとったら理解できるのかもな
Big brother saw me at the bottom of the totem
兄貴は、俺がトーテムポールの底辺にいるのを見てた
Now I'm on the top and everybody on the scrotum
今や俺は頂点にいて、みんなが俺の金玉にぶら下がってやがる
※on the scrotum=「睾丸にぶら下がる」。成功した途端に手のひらを返してすり寄ってくる連中(Dickrider)への痛烈な皮肉。
[Chorus]
My big brother was B.I.G.'s brother
俺の兄貴は、B.I.G.の兄弟だった
Used to be Dame and Biggs' brother
かつてはデイムとビグスの兄弟でもあった
Who was Hip Hop brother, who was No I.D. friend
ヒップホップ・ブラザーであり、No I.D.のダチだった男
No I.D. my mentor, now let the story begin, begin
No I.D.は俺のメンターだ。さあ、物語を始めよう
Let the story begin
物語を始めよう
If you feel the way I feel why don't you wave your hands?
俺と同じ気持ちなら、手を振ってくれないか?
[Verse 3]
Have you ever walked in the shadow of a giant?
巨人の影の中を歩いたことがあるか?
Not only a client, the Presidito, hola, Hovito
ただのクライアントじゃねえ、プレジデントであり、オラ、ホヴィートだ
※当時Jay-ZがDef Jamの社長(President)に就任したことへの言及。HovitoはJay-Zの別名。
The game gettin' foul so here's a free throw
ゲームがファウル気味になってきたから、ここでフリースローを打たせてもらうぜ
※スポーツの比喩。「フェアじゃない扱いを受けたから、ここで自分の言い分を言わせてもらう」という意味。
I was always on the other side of the peephole
俺はいつも覗き穴の反対側にいた(中に入れてもらえなかった)
Then I dropped "Jesus Walks" now I'm on the steeple
それから「Jesus Walks」をドロップして、今じゃ教会の尖塔の上にいる
And we know, "New Jack City"—got to keep my brother
分かってるさ、『ニュー・ジャック・シティ』だ、兄弟を守らなきゃな
※1991年のギャング映画『New Jack City』における兄弟間の裏切りや絆を引き合いに出している。
But to be number one I'ma beat my brother
でもナンバーワンになるためには、俺は兄貴を倒さなきゃならねえ
On that "Diamonds" remix I swore I spazzed
「Diamonds」のリミックスで、俺はマジでヤバいバースを蹴ったと確信してた
Then my big brother came through and kicked my ass
そしたら兄貴がやって来て、俺のケツを蹴り上げ(完全に食っちまっ)たんだ
※「Diamonds from Sierra Leone (Remix)」での客演。Jay-Zの神がかったバースがカニエのバースを完全に喰ってしまい、リスナーから圧倒的な評価を得た悔しさを吐露している。
Sibling rivalry, only I could see
兄弟間のライバル意識、俺にしか見えてなかったけどな
It was the pride in me that was drivin' me
俺を突き動かしてたのは、自分の中のプライドだった
At the Grammys I said, "I inspired me"
グラミー賞じゃ、「俺が俺自身にインスピレーションを与えた」なんて言ったけど
But my big brother who I always tried to be
でも本当は、俺がいつもなりたかったのは兄貴だったんだ
When I kicked a flow it was like pick-and-roll
俺がフロウをかます時は、ピック・アンド・ロールみたいなもんだった
'Cause even if he gave me the rock, it's give-and-go
彼が俺にボール(チャンス)をくれても、すぐにギブ・アンド・ゴーで返しちまうからな
※バスケットボールの戦術に例え、Jay-Zがせっかくチャンス(Rock=ボール、またはRoc-A-Fellaの象徴)をくれても、自分がそれを活かしきれていなかった当時の未熟さを表現している。
I guess Beanie's style was more of a slam dunk
ビーニーのスタイルはもっとスラムダンクっぽかったんだろうな
※Beanie Sigel=Roc-A-Fella所属のラッパー。彼のハードコアなスタイルが「スラムダンク」のようにレーベルカラーに直結していたとの対比。
And my shit was more like a finger roll
それに比べて俺のは、フィンガーロールみたいだったのさ
※カニエのスタイルは技巧的(フィンガーロール)だが、当時のギャングスタ・ラップ全盛期においては力強さに欠けると見なされていた。
But I had them singles though
でも俺にはヒット・シングルがあったからな
And them hoes at the show gonna mingle, yo, heh, y'all know
ショーに来た女たちはみんな群がってくるんだぜ、なあ、分かるだろ
I told Jay I did a song with Coldplay
俺はジェイに、Coldplayと曲をやったって話したんだ
※本作と同じアルバム『Graduation』に収録された「Homecoming」のこと。
Next thing I know he got a song with Coldplay
そしたら気付いた時には、彼もColdplayと曲をやってやがった
※Jay-Zのアルバム『Kingdom Come』収録の「Beach Chair」。自分のアイデアを兄貴に横取りされたと感じたエピソード。
Back in my mind I'm like, "Damn, no way"
心の底では、「おいおい、マジかよ」って感じだったぜ
Translate, español: "No way, José"
スペイン語に翻訳すりゃ、「ノー・ウェイ、ホセ(ありえねえ)」ってやつだ
Then I went and told Jay Brown
それで俺はジェイ・ブラウンに愚痴をこぼしちまった
※Jay Brown=Jay-Zのビジネスパートナーであり側近。
Shoulda known that was gon' come back around
それが回り回って本人の耳に入るってことくらい、分かっておくべきだった
Shoulda talked to you like a man, shoulda told you first
男として直接あんたに話すべきだった、最初に伝えるべきだったんだ
But I told somebody else and that's what made shit worse
でも俺は他人に話しちまって、それが事態をさらに悪化させたんだよな
[Bridge]
My big brother was B.I.G.'s brother
俺の兄貴は、B.I.G.の兄弟だった
So here's a few words from ya kid brother
だからここで、あんたの弟からいくつか言葉を贈らせてもらうぜ
If you admire somebody you should go on 'head tell 'em
もし誰かを尊敬してるなら、迷わず本人に伝えるべきだ
People never get the flowers while they can still smell 'em
人間は生きて匂いを嗅げるうちには、花(称賛)をもらえないもんだからな
※give someone their flowers=「(その人が生きているうちに)感謝や称賛を伝える」というAAVEのイディオム。死んでから花を手向けるのではなく、生前にリスペクトを示すべきだというメッセージ。
A idol in my eyes, god of the game
俺の目にはアイドルとして映り、このゲームの神だった
Heart of the City, Roc-a-Fella chain
『Heart of the City』、そしてロッカフェラのチェーン
※「Heart of the City (Ain't No Love)」はカニエがプロデュースしたJay-Zの名曲。
Never be the same, never be another
決して変わることはないし、代わりなんていない
Number one, Young Hov, also my big brother
ナンバーワン、ヤング・ホヴ、そして俺の偉大な兄貴
[Chorus]
My big brother was B.I.G.'s brother
俺の兄貴は、B.I.G.の兄弟だった
Used to be Dame and Biggs' brother
かつてはデイムとビグスの兄弟でもあった
Who was Hip Hop brother, who was No I.D. friend
ヒップホップ・ブラザーであり、No I.D.のダチだった男
No I.D., my mentor, and that's where the story ends
No I.D.は俺のメンターだ。そしてここで物語は終わる
[Outro]
Toomp killed this shit
トゥンプがこのビートを殺し(完璧に仕上げ)たぜ
※プロデューサーのDJ Toompに向けたシャウトアウト。kill=「見事にやり遂げる」「最高なものにする」というスラング。
