Artist: Kanye West
Album: The College Dropout
Song Title: All Falls Down
概要
本作はKanye Westのデビューアルバム『The College Dropout』(2004年)を代表するクラシックであり、現代の消費社会と黒人コミュニティが抱える「自己肯定感の低さ(Self-conscious)」を鋭く突いた内省的な楽曲だ。元々はLauryn Hillの「Mystery of Iniquity」を直接サンプリングしていたが、権利関係の都合でSyleena Johnsonによる歌い直し(補作)が採用された。大学教育の意義への疑問、物質主義(ハイブランドや高級車への執着)の裏にある劣等感、そして資本主義構造における人種的搾取を赤裸々に描写しつつ、「自分自身もそのシステムに取り込まれている」と認めるカニエの等身大の視点が、当時のヒップホップシーンに多大な衝撃を与えた。
和訳
[Chorus: Syleena Johnson & Kanye West]
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
Yeah, this the real one, baby
ああ、これがリアルなやつだぜ、ベイビー。
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
Uh, Chi-Town, stand up!
アー、シカゴ、立ち上がれ!
※Chi-Town=カニエの地元であるイリノイ州シカゴの愛称。
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
Southside, Southside
サウスサイド、サウスサイド。
We gon' set this party off right
俺たちがこのパーティーをブチ上げるぜ。
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
Westside, Westside
ウェストサイド、ウェストサイド。
We gon' set this party off right
俺たちがこのパーティーをブチ上げるぜ。
Oh, when it all
ああ、すべてが崩れる時。
[Verse 1: Kanye West]
Man, I promise, she's so self-conscious
マジで誓うけど、あの子は自意識過剰なんだ。
She has no idea what she doin' in college
大学で自分が何をしてるのかも分かっちゃいない。
That major that she majored in don't make no money
彼女が専攻した科目じゃ、金なんか稼げやしないのに。
But she won't drop out, her parents'll look at her funny
でも中退はしない。親に変な目で見られるからな。
Now, tell me that ain't insecurr
なあ、それが不安(インセキュア)じゃないって言えるか?
※insecurr=insecureのこと。後のsecurr (secure), yurrs (years), carurr (career), hurr (here) と韻を踏むために、AAVE特有の訛り(セントルイス訛りなど)を意図的に強調して発音している。
The concept of school seems so securr
「学校」っていう概念は、すごく安全(セキュア)に見えるからな。
Sophomore, three yurrs, ain't picked a carurr
大学2年生を3年もやってるのに、まだ進路(キャリア)も決めてない。
She like, "Fuck it, I'll just stay down hurr and do hair"
彼女は「もういいや、ここに残って美容師でもやろ」って感じだ。
'Cause that's enough money to buy her a few pairs
だってそれなら、靴を何足か買えるくらいの金にはなるからな。
Of new Airs, 'cause her baby daddy don't really care
新品のエアフォースをね。だって子供の父親はろくに気もかけちゃくれないから。
※Airs=Nike Air Force 1などのスニーカー。baby daddy=婚姻関係にない子供の父親を指すスラング。
She's so precious with the peer pressure
同調圧力にさらされて、あの子はすごく神経質になってる。
Couldn't afford a car, so she named her daughter Alexis
車を買う余裕なんてないから、娘に「アレクシス」って名付けたのさ。
※Alexis=高級車「Lexus(レクサス)」をもじった名前。物質的な豊かさへの憧れを子供の名前に託すという、貧困層における哀しいアイロニーを描写している。
She had hair so long that it looked like weave
彼女の髪はウィーブ(編み込みの付け毛)に見えるくらい長かったのに。
Then she cut it all off, now she look like Eve
全部切り落としちまって、今じゃ(ラッパーの)イヴみたいな見た目だ。
※Eve=Ruff Ryders所属の女性ラッパー。トレードマークであった短髪(ブロンドのショートヘア)を指している。
And she be dealin' with some issues that you can't believe
そして彼女は、信じられないような悩みを抱えてるんだ。
Single black female addicted to retail, and well
「買い物依存症の独身黒人女性」ってやつさ、全く。
※1992年の映画『Single White Female(ルームメイト)』のタイトルをもじりつつ、ストレスや自己肯定感の低さを買い物(retail)で埋め合わせようとする虚無感を突いている。
[Chorus: Syleena Johnson & Kanye West]
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
And when it falls down, who you gon' call now?
それが崩れ去った時、お前は誰に助けを求めるんだ?
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
C'mon, c'mon, and when it all falls down
カモン、カモン、すべてが崩れ落ちる時。
Oh, when it all
ああ、すべてが。
[Verse 2: Kanye West]
Man, I promise, I'm so self-conscious
マジで誓うけど、俺だって自意識過剰なんだ。
That's why you always see me with at least one of my watches
だから俺は、いつも最低でも1つは高級時計を見せびらかしてるだろ。
Rollies and Pashas done drove me crazy
ロレックスやパシャのせいで、俺はおかしくなっちまった。
※Rollies=Rolex。Pashas=Cartierの高級時計Pasha(パシャ)。
I can't even pronounce nothing, pass that Ver-say-see!
(ブランド名の)発音すらろくにできないくせに、「その『ヴェル・セイ・シー』を取ってくれ!」なんて言ってるんだぜ。
※Ver-say-see=高級ブランドVersace(ヴェルサーチェ)の田舎くさい間違った発音。見栄を張ってハイブランドを着飾るものの、本当の教養や富裕層の文化は持ち合わせていない自分自身を自嘲している。
Then I spent four hundred bucks on this
それで、こんな服に400ドルもつぎ込んでさ。
Just to be like, "Nigga, you ain't up on this"
ただ「お前らこんなイケてる服知らねえだろ」ってマウントを取るためだけにな。
And I can't even go to the grocery store
近所のスーパーに行くことすらできねえんだ。
Without some 1s that's clean and a shirt with a team
ピカピカのエアフォース1と、スポーツチームのシャツを着てないとさ。
It seem we livin' the American Dream
俺たちはアメリカン・ドリームを生きてるように見える。
But the people highest up got the lowest self-esteem
だけど、一番高いところにいる奴らが、一番自己肯定感(セルフ・エスティーム)が低かったりするんだ。
The prettiest people do the ugliest things
一番美しい人たちが、一番醜いことをする。
For the road to riches and diamond rings
金持ちへの道と、ダイヤモンドの指輪を手に入れるためにな。
We shine because they hate us, floss 'cause they degrade us
あいつらが俺たちを憎むから俺たちは輝くし、見下してくるから宝石を見せびらかすんだ。
※抑圧される黒人が、白人社会への反骨精神や成功の証明としてジュエリー(Bling)で着飾る心理(floss)を分析している。
We tryna buy back our 40 acres
俺たちは自分の「40エーカー」を買い戻そうとしてるんだよ。
※40 acres=南北戦争後に解放奴隷に対して約束されたが反故にされた「40エーカーとラバ1頭(40 acres and a mule)」という未履行の補償のこと。物質主義の根底には、奪われた富を取り戻そうとする歴史的な渇望があるという深い考察である。
And for that paper, look how low we'll stoop
その札束(ペーパー)のためなら、俺たちがどれだけ地に落ちるか見てみろよ。
Even if you in a Benz, you still a nigga in a coupe
たとえベンツに乗っていようが、結局は「クーペに乗ったニガ」扱いされるだけなのにな。
※どれだけ経済的に成功し高級車(Benz coupe)に乗ろうとも、アメリカ社会に根付く人種差別からは逃れられないという絶望的な真実を突いた、ヒップホップ史に残るパンチラインである。
[Chorus: Syleena Johnson & Kanye West]
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
Come on, come on
カモン、カモン。
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
And when it falls down, who you gon' call now?
それが崩れ去った時、お前は誰に助けを求めるんだ?
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
Come on, come on
カモン、カモン。
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
And when it all falls down
そしてすべてが崩れ落ちる時。
[Verse 3: Kanye West]
I say, "Fuck the police," that's how I treat 'em
俺は「ファック・ザ・ポリス」って言う、それがサツに対する俺の態度だ。
We buy our way out of jail, but we can't buy freedom
金で刑務所から保釈されることはできても、「自由」を金で買うことはできねえ。
We'll buy a lot of clothes, but we don't really need 'em
服を山ほど買うけど、本当はそんなの必要ないんだよ。
Things we buy to cover up what's inside
俺たちが物を買うのは、心の中にある虚無感を隠すためだ。
'Cause they made us hate ourself and love they wealth
だって奴らが、俺たちに自分自身を憎ませ、奴らの持つ「富」を愛するように仕向けたからな。
※they=白人優位の資本主義社会やメディア。黒人に劣等感を植え付け、消費行動へと駆り立てる構造を批判している。
That's why shorty's hollerin', "Where the ballers at?"
だから女たちは「金持ち(ボーラー)はどこ?」なんて喚いてるのさ。
Drug dealer buy Jordan, crackhead buy crack
ドラッグの売人はジョーダンを買い、ヤク中はクラックを買う。
And the white man get paid off of all of that
そして、白人はそのすべてから利益を搾取してるんだ。
※黒人コミュニティ内で金が回っているように見えて、行き着く先(巨大企業の役員やドラッグの元締め)は白人層であるという、資本主義の搾取構造を看破した鋭いライン。
But I ain't even gon' act holier than thou'
でも、俺は聖人君子ぶるつもりはねえよ。
※holier than thou=「自分は他人より道徳的に優れていると気取る」こと。
'Cause fuck it, I went to Jacob with 25 thou'
だって、どうでもいいだろ、俺は2万5千ドル握りしめてジェイコブの店に行ったんだから。
※Jacob=ラッパー御用達の高級宝飾店「Jacob & Co.」。thou=thousand(千ドル)。システムを批判しつつも、自分自身もその見栄(Bling文化)に抗えないという矛盾を告白している。
Before I had a house and I'd do it again
家を買うよりも前にな。そして、何度だって同じことをするぜ。
‘Cause I wanna be on 106 & Park, pushin' a Benz
だって俺は、ベンツを転がして『106 & Park』に出演したいからな。
※106 & Park=BET(ブラック・エンターテインメント・テレビジョン)で放送されていた大人気の音楽ビデオ番組。当時のラッパーにとって最大の成功の象徴の一つ。
I want to act ballerific like it's all terrific
すべてが最高だぜって顔して、大金持ち(ボーラリフィック)みたいに振る舞いたいんだ。
I got a couple past-due bills, I won't get specific
期限切れの請求書がいくつかあるけど、具体的には言わねえよ。
I got a problem with spendin' before I get it
稼ぐ前に金を使っちまう悪い癖があるんだ。
We all self-conscious, I'm just the first to admit it
俺たちはみんな自意識過剰なんだ。俺はただ、真っ先にそれを認めただけさ。
※アルバム全体、そしてKanye Westというアーティストのコアとなる哲学。完璧なギャングスタを演じるのではなく、弱さや見栄っ張りな部分を素直に認めることで、彼はヒップホップの新しいパラダイムを切り開いた。
[Chorus: Syleena Johnson & Kanye West]
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
C'mon, c'mon
カモン、カモン。
And when it falls down, who you gon' call now?
それが崩れ去った時、お前は誰に助けを求めるんだ?
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
C'mon, c'mon, and when it falls down
カモン、カモン、すべてが崩れ落ちる時。
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
Southside, Southside
サウスサイド、サウスサイド。
We gon' set this party off right
俺たちがこのパーティーをブチ上げるぜ。
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
Westside, Westside
ウェストサイド、ウェストサイド。
We gon' set this party off right
俺たちがこのパーティーをブチ上げるぜ。
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
Chi-Town, Chi-Town
シャイ・タウン、シャイ・タウン(シカゴ)。
We gon' show 'em how we get down
俺たちの遊び方を奴らに見せてやる。
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
Now, Syleena, you just like a safe belt, you saved my life
さあ、シリーナ。君はまるでシートベルトみたいに、俺の命を救ってくれたよ。
※サンプリングの許可が下りずお蔵入りになりかけたこの曲を、Syleena Johnsonが歌い直してくれたことで完成に至ったことへの感謝を述べている。
C'mon
カモン。
Oh, when it all, it all falls down
ああ、すべてが、すべてが崩れ落ちていく時。
I'm tellin' you all, it all falls down
言っとくが、すべては崩れ去るんだ。
[Outro: DeRay]
Applause
(拍手)
I can't keep workin' like this
もうこんな働き方は続けられねえ。
This grave shifts is like a slave ship
この夜勤(グレイブ・シフト)は、まるで奴隷船みたいだ。
※grave shifts=深夜勤務(graveyard shift)。低賃金で過酷な労働を、黒人の歴史的トラウマである奴隷船(slave ship)に例えて締めくくる、痛烈なパンチライン。
