Artist: Frank Ocean
Album: Blonde
Song Title: Nikes
概要
2016年にリリースされたFrank Oceanの歴史的傑作アルバム『Blonde』のオープニングを飾る重要曲だ。前半のピッチアップされたボーカルは、若さや物質主義に囚われた表層的な視点を表現しており、後半で地声に移行するに伴い、より内省的でリアルな感情が吐露される構成を持つ。ナイキのスウッシュ(小切手)に群がる人々を冷笑しつつ、若くして亡くなったA$AP YamsやPimp Cへの哀悼、そして「自分とそっくりだった」と語るTrayvon Martin事件への言及を通じて、黒人社会が抱える痛みと生への渇望を鮮烈に描き出している。また、物理メディア版(雑誌『Boys Don't Cry』付属CD)には日本のラッパーKOHHのヴァースが収録されており、日米のシーンを繋ぐ特筆すべき楽曲である。
和訳
[Verse 1: Frank Ocean]
These bitches want Nikes
あいつらナイキが欲しいんだろ。
They looking for a check
小切手(金)を探し回ってる。
※「check」には「小切手(金銭)」と、Nikeのロゴである「スウッシュ(チェックマーク)」のダブルミーニングが込められている。金やブランドに群がる物質主義的な女性たちへの痛烈な皮肉だ。
Tell 'em it ain't likely
そんなの無理な相談だなって言ってやれよ。
Said she need a ring like Carmelo
カーメロみたいにリング(指輪)が必要だってさ。
※「Carmelo」はNBAのスター選手カーメロ・アンソニーのこと。彼が個人としては圧倒的な実力を持ちながらも優勝リング(チャンピオンシップ)に縁がなかった事実と、女性が求める「婚約指輪(リング)」を掛けている。
You must be on that white like Othello
オセロみたいに白(コカイン)に夢中なんだろ。
※「white」はコカインを指すストリート・スラング。黒と白の石を使うボードゲームの『オセロ』、あるいは白人女性デズデモーナを愛したシェイクスピアの悲劇『オセロ』の主人公に由来する秀逸なメタファーである。
All you want is Nikes, but the real ones
お前が欲しいのはナイキだけ、でも「本物」はさ。
Just like you, just like me
お前みたいに、俺みたいにな。
I don't play, I don't make time
俺は遊びじゃないし、無駄な時間も作らない。
But if you need dick, I got you
でもヤリたいって言うなら、相手してやるよ。
And I yam from the line
フリースローラインからダンク(ヤム)をブチかますぜ。
※「yam」は力強くダンクを決めるというバスケットボール用語。直後のラインで言及されるA$AP Yams(ヤムズ)へと繋ぐための高度な伏線として機能している。
Pour up for AAP,R.I.P.PimpCAAPのために酒を注ごう、安らかに眠れPimp C。
※2015年に薬物の過剰摂取で急逝したA$AP Yamsと、2007年に亡くなったUGKのPimp Cへの追悼。「Pour up」は死者を悼んで酒を地面に撒く(Libation)行為、または彼らが愛飲したコデイン(リーン)を作る行為を示唆している。
R.I.P. Trayvon, that nigga look just like me
トレイボン、安らかに。あの子は俺とそっくりだった。
※2012年にフロリダ州で自警団に射殺された黒人少年トレイボン・マーティンへの追悼。彼がフードを被っていただけで不審者扱いされ命を落とした事件に対し、フランクは自身との身体的・人種的な重ね合わせを強烈に示している。
Woo, fuckin' buzzin', woo
ウー、クソいい気分だぜ、ウー。
That my little cousin, he got a little trade
あれは俺のいとこ、ちょっとした取引(ドラッグ)をやってる。
※「trade」はドラッグの売買を指す。またゲイ文化においては「男らしく異性愛者のように見えるゲイ/バイの男性」を指すスラングでもあり、自身のセクシュアリティをカミングアウトしたフランクならではの多重意味を持つ。
His girl keep the scales, a little mermaid
あいつの女は量りを握ってる、小さな人魚(マーメイド)さ。
※「scales」はドラッグの計量器と、人魚の「鱗(スケール)」を掛けた見事なワードプレイである。
We out by the pool, some little mermaids
プールサイドに溜まってる、俺たちも小さな人魚さ。
Me and them gel like twigs with them bangs
俺とあいつら、前髪のあるツィギーみたいにバッチリ固まってる(気が合う)。
※「gel」はヘアジェルで髪を固めることと、「気が合う・団結する」というスラングを掛けている。60年代の世界的ファッションアイコンであるツィギーの特徴的な髪型を引用している。
Now that's a real mermaid
あれこそが本当の人魚だ。
You been holding your breath, weighted down
お前はずっと息を止めて、重荷を背負い込んでた。
Punk madre, punk papá
パンクな母ちゃん、パンクな父ちゃん。
He don't care for me, but he cares for me
親父は俺の世話なんてしないけど、気には掛けてくれてる。
※「care for」が持つ「世話をする」と「愛情を抱く」という両義性を用いた表現。複雑で距離のある親子関係のリアルを端的に表している。
And that's good enough
それだけで十分さ。
We don't talk much or nothin'
あんまり話もしないし、何もない。
But when we talkin' 'bout somethin'
でも何かしら話すときは、
We have good discussion
いい議論ができるんだ。
I met his friends last week
先週、彼(恋人)の友達に会ったんだ。
Feels like they're up to somethin'
あいつら、何か企んでるみたいだった。
That's good for us
それは俺たちには都合がいい。
[Verse 2: Frank Ocean]
We'll let you guys prophesy
お前らには予言でもさせておこう。
We'll let you guys prophesy
お前らには予言でもさせておこう。
We gon' see the future first
俺たちが先に未来を見るからさ。
We'll let you guys prophesy
お前らには予言でもさせておこう。
We gon' see the future first
俺たちが先に未来を見るからさ。
Living so the last night feels like a past life
昨晩が前世みたいに思えるくらい、濃く生きてる。
Speaking of the don't know what got into people
何が人々に乗り移ったのか分からないって話だけど。
Devil be possessin' homies
悪魔がダチに取り憑いてるんだよ。
Demons try to body-jump
悪霊が体を乗っ取ろうとしてやがる。
Why you think I'm in this bitch wearing a fucking yarmulke?
なんで俺がこんな場所でヤルムルケなんか被ってると思う?
※「yarmulke(ヤルムルケ)」はユダヤ教徒の男性が頭頂部に被る小さな帽子のこと。フランクは頭を保護することで、悪霊(Demons)に体を乗っ取られる(body-jump)のを防いでいるというオカルト的かつ自己防衛的なメタファーだ。
Acid on me like the rain
雨みたいにアシッド(LSD)を浴びる。
Weed crumbles into glitter
ウィード(大麻)を砕けばグリッター(ラメ)みたいに輝く。
Rain, glitter
雨、グリッター。
We laid out on this wet floor
濡れたフロアに寝転がってる。
Away turf, no Astro'
アウェーの芝生、アストロターフじゃない。
※「Astro」は人工芝の世界的ブランド「AstroTurf」のこと。ここは安全な人工芝の上ではなく、アウェー(敵地)の過酷でリアルな現実に身を置いていることを示している。
Mesmerized how the strobes glow
ストロボの光に魅了されてる。
Look at all the people feet dance
踊るみんなの足を見てみなよ。
I know that your nigga came witcha
お前の彼氏も一緒に来てるのは分かってる。
But he ain't witcha
でも心はお前と一緒じゃないだろ。
We only human, and it's humid in these Balmains
俺たちもただの人間、このバルマンのデニムの中は蒸れてるぜ。
※「Balmain」はフランスの高級ファッションブランド。2016年当時のヒップホップ界隈で流行の頂点にあったバイカーデニムを指している。高価な服を着ていても身体的な不快感は逃れられないという生々しい描写である。
I mean, my balls stickin' in my jeans
つまり、ジーンズに金玉がへばりついてるってことさ。
We breathin' pheromones, Amber Rose
フェロモンを吸い込んでる、アンバー・ローズみたいに。
※「Amber Rose」はカニエ・ウェストやウィズ・カリファとの交際でも知られるモデル・インフルエンサー。彼女の圧倒的な存在感や性的魅力を「空間に漂うフェロモン」と結びつけている。
Sippin' pink-gold lemonades
ピンクゴールドのレモネードを啜る。
Feelin'
感じてる。
[Outro: Frank Ocean & Amber Coffman, Frank Ocean]
I may be younger, but I'll look after you (Prophesy)
俺のほうが年下かもしれないけど、お前の面倒は見るよ(予言さ)。
We're not in love, but I'll make love to you (Prophesy)
恋に落ちてはいないけど、愛し合おうぜ(予言さ)。
When you're not here, I'll save some for you
お前がいないときは、少し残しておくから。
I'm not him, but I'll mean somethin' to you
俺は「あいつ」じゃないけど、お前にとって意味のある存在になる。
I'll mean something too
俺だって意味のある存在になる。
I'll mean something too
俺だって意味のある存在になる。
You got a roommate, he'll hear what we do
お前にはルームメイトがいる、俺たちのヤッてる声が聞こえるだろうな。
It's only awkward if you're fuckin' him too
もしお前がそいつともヤッてるなら、気まずいだけだろ。
[Verse 3: KOHH]
※本作のリリースに合わせて限定販売されたZINE『Boys Don't Cry』に付属するCD版(物理メディア)にのみ、日本のラッパーKOHHによるヴァースが収録されている。ストリートの現実とシャネルなどのハイブランドを交錯させる彼独自の死生観が語られており、フランクが日本のヒップホップシーンを深く注視していたことが窺える歴史的コラボレーションである。
一人の男
たくさんかわいい女の子
誰かのことを 誰も縛れはしない(ムリ)
他人の心
まあ、飲みたいならお酒でも飲もう(ふぉ)
彼女がいたり、彼氏がいたり
気の合っちゃう人間2人
しょうがない
男たちと 女たち
去るもの追わず
来るもの選ぶ
それだけの話
今しかない時間
大事にしな
何億万人も
いい人ならいるよ
あの子がまたモデルの子に嫉妬
でも好きなら好き
無理なら無理だし
次から次に (次に)
類が友を呼んでくれるいつも (類が友を呼ぶ)
たまには離れてみるのも必要 (必要, 必要)
自由にする まるでパリスヒルトン (パリスヒルトン)
