アルバム全曲和訳・解説
オルタナティブR&BバンドThe Internetのフロントウーマンであり、現代のクィア・カルチャーとメロウサウンドを象徴するアイコン、Syd(シド)。彼女の作品は常に、過剰な主張や劇的な展開を避けたところにある「生活の質感」を鳴らしてきた。本作『Beard』は…
Gracie Abramsのアルバム『Daughter from Hell』は、リスナーが彼女に抱く「繊細で傷つきやすいベッドルーム・ポップの少女」という期待を、自嘲的な鋭さと冷徹な観察眼で突き破るような強靭さを孕んでいる。著名な家族のもとに生まれ、テイラー・スウィフト…
Steve Lacyのアルバム『Oh yeah?』は、リスナーが彼に対して抱く「ローファイなベッドルーム・ソウル」という期待を、独自のユーモアと冷めた視点で突き放すような歪さを孕んでいる。前作『Gemini Rights』でグラミー賞を獲得し、メインストリームのポップス…
2005年の『Confessions on a Dance Floor』がミラーボールの下で繰り広げられた煌びやかなノンストップ・ミックスだとしたら、『CONFESSIONS II』は、そのフロアの明かりが落ちた後に残る耳鳴りと、明け方の冷たい空気を記録したような作品として響く。前作…
Eminemのキャリアにおいて、4作目のスタジオアルバム『Encore』は最も奇妙で、かつ議論を呼び続けている作品である。前作までの張り詰めた緊張感や鋭利な社会風刺から一転し、本作では狂気的なユーモアと、どこか投げやりにも思える脱力感がアルバムの大部分…
幕が再び上がり、歓声が響く中、ステージに立つスーパースターは明らかに疲弊していた。2004年にリリースされた本作『Encore』は、ヒップホップの歴史を塗り替えた3枚のクラシック・アルバムに続く作品でありながら、名声の重圧と深刻な睡眠薬への依存によっ…
不穏なピアノのループと、重く引きずるようなギターのリフ。映画のサウンドトラックという枠組みを超え、2000年代初頭のヒップホップ・シーンにおける特大のモニュメントとなった本作『8 Mile』は、Eminemが自身の半生を投影した主人公の抱える「飢え」を、…
幕が上がり、足音とマイクを叩く音が響く。2002年に発表された『The Eminem Show』は、世界で最も危険なエンターテイナーとなったEminemが、自らの人生そのものを劇場型のショーとして見世物にした巨大なスタジアム・ヒップホップの記録である。前作までのカ…
幕が上がり、足音とマイクを叩く音が響く。2002年に発表された『The Eminem Show』は、世界で最も危険なエンターテイナーとなったEminemが、自らの人生そのものを劇場型のショーとして見世物にした巨大なスタジアム・ヒップホップの記録である。前作までのカ…
前作の世界的ヒットにより、アンダーグラウンドの厄介者は一夜にしてポップカルチャーの巨大な標的となった。本作『The Marshall Mathers LP』は、突如として降りかかった名声への困惑、偏向報道を繰り返すメディアへの殺意、そして熱狂的なファンへの恐怖を…
前作の世界的ヒットにより、アンダーグラウンドの厄介者は一夜にしてポップカルチャーの巨大な標的となった。本作『The Marshall Mathers LP』は、突如として降りかかった名声への困惑、偏向報道を繰り返すメディアへの殺意、そして熱狂的なファンへの恐怖を…
カートゥーンのようなチープで軽快なビートの上で、放送コードすれすれの暴力的なジョークや猟奇的な空想が次々と吐き出される。1999年にリリースされた本作『The Slim Shady LP』は、デトロイトの貧困層から現れたEminemが「Slim Shady」という倫理観のタガ…
カートゥーンのような軽快なビートの上で、放送コードすれすれの暴力的なジョークが次々と吐き出される。本作『The Slim Shady LP』は、デトロイトの貧困層から現れたEminemが「Slim Shady」という倫理観を欠いたオルターエゴ(別人格)を憑依させ、世界の偽…
2000年代後半のヒップホップシーンにおいて、Lil Wayneが放っていた熱量は異常だった。ミックステープ市場を完全に制圧し、「生きている中で最高のラッパー」という称号を自ら名乗り、そして客演の嵐でそれを実証し続けていた彼の、商業的かつ芸術的な頂点と…
2000年代後半のヒップホップシーンにおいて、Lil Wayneの『Tha Carter III』が放っていた熱量は異常だった。ミックステープ市場を制圧し、「生きている中で最高のラッパー」という称号を自ら名乗り、そして実証し続けていた彼の、商業的かつ芸術的な頂点とし…
Tha Carter IIは、Lil Wayneが「勢いのある若手」から「自分で王冠を奪いに行くラッパー」へ変わる瞬間を、かなり生々しい形で残したアルバムである。前作Tha Carterのニューオーリンズ的なバウンス感を引き継ぎながら、ここではビートの隙間が広がり、Wayne…
Tha Carterは、Lil Wayneが「Cash Moneyの若きスター」から「自分の王国を持つラッパー」へ移動していく瞬間を切り取ったアルバムである。ニューオーリンズ産のバウンス感、Mannie Fresh的な跳ねるドラム、南部ヒップホップ特有の荒い低音、その上でWayneの…
Kanye Westの口から放たれる言葉は、常に威嚇と悲鳴の境界線を揺れ動いている。本作『BULLY - DELUXE』は、そのタイトルが示す通り「いじめっ子/ガキ大将」としての傲慢なペルソナを前面に押し出しながらも、トラックリストを追うごとに彼自身の内なる疲弊…
Playboi Cartiが長い沈黙を破り提示した『MUSIC - SORRY 4 DA WAIT』は、極限まで音数を削ぎ落とした暗い沼のようなビートと、不気味な低音ボイスが支配する異形のトラップ・アルバムだ。前作『Whole Lotta Red』でシーンを焼き尽くしたレイジ・サウンドから…
Playboi Cartiが長い沈黙を経て提示した『MUSIC』は、前作『Whole Lotta Red』が巻き起こしたノイズと狂乱のレイジ・サウンドから一転、リスナーを重い沼の底へと引きずり込むような特異な引力を持っている。「POP OUT」から「SOUTH ATLANTA BABY」に至る全3…
Playboi Cartiの『Whole Lotta Red』は、耳をつんざくようなシンセサイザーと極端に歪んだベースライン、そして喉を枯らすような金切り声が交錯する、極めて攻撃的な作品として響く。前作『Die Lit』で確立したミニマリズムの美学を自ら粉々に打ち砕き、彼は…
Playboi Cartiの『Die Lit』は、トラップ・ミュージックが持っていたミニマリズムを極限まで推し進め、それをモッシュピットのための破壊的なエネルギーへと変換した作品として響く。前作のセルフタイトル・ミックステープで見せた浮遊感のあるアプローチか…
本作『Playboi Carti』は、トラップ・ミュージックにおける「声の楽器化」とミニマリズムを決定づけたモニュメント的な作品として位置づけることができる。「Location」のアンビエントなシンセサイザーから始まり、重厚な808ベースの上で繰り返されるフレー…
Kendrick Lamarの『Black Panther: The Album』は、映画『Black Panther』のためのサウンドトラックでありながら、単なる映画の挿入歌集ではなく、王位、継承、亡命、復讐、救済、ブラックカルチャーの誇りをHIPHOP / R&Bの文脈へ翻訳した作品である。2018年…
Kendrick Lamarの『DAMN. COLLECTORS EDITION.』は、『DAMN.』の楽曲を新たに追加するのではなく、トラックリストを完全に逆順へ並べ替えた特別版である。通常版が「BLOOD.」から「DUCKWORTH.」へ進むのに対し、このCollector’s Editionは「DUCKWORTH.」から…
Kendrick Lamarの『DAMN.』は、前作『To Pimp a Butterfly』のジャズ/ファンク的な拡張から一転し、より削ぎ落とされたビート、トラップ、R&B、ポップの即効性を使って、血筋、罰、神、恐怖、愛、欲望、偶然を一語タイトルとして並べたアルバムである。2017…
Kendrick Lamarの『untitled unmastered.』は、『To Pimp a Butterfly』の完成された壁画の横に残された、下書き、余白、消されなかった線のような作品である。2016年3月4日にTop Dawg Entertainment、Aftermath Entertainment、Interscope Recordsからリリ…
Kendrick Lamarの『To Pimp a Butterfly』は、成功したラッパーが祝杯を上げるアルバムではなく、その成功が自分の内側と共同体に何を残したのかを、ジャズ、ファンク、ソウル、Gファンク、スポークンワードの質感で掘り返す作品である。2015年にTop Dawg En…
Kendrick Lamarの『good kid, m.A.A.d city (Deluxe Version)』は、Comptonで育った一人の少年が、欲望、仲間、暴力、家族、祈りの間を通過していくアルバムである。ジャケットに“A Short Film by Kendrick Lamar”と掲げられた通り、曲順はほとんど映画の場…
Kendrick Lamarの『good kid, m.A.A.d city』は、Comptonを舞台にした青春の記憶を、ラップ・アルバムという形で組み直した作品である。派手な成功譚ではなく、若いKendrickが誘惑、仲間意識、暴力、家族の声、信仰の感覚の間で揺れる一日を追っていく。アル…